大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1291号 判決

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  静岡地方裁判所沼津支部昭和五九年(ヨ)第二六四号地位保全等仮処分申請事件について、同裁判所同支部が昭和五九年一二月二七日にした仮処分決定は、これを取り消す。

3  被控訴人らの本件仮処分申請をいずれも却下する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する。

一1  原判決六枚目裏七行目の「専従執行委員」を「専従中央執行委員」と、同一二枚目裏九行目の「部所」を「部署」とそれぞれ改める。

2  原判決添付別紙ビラ等の一覧表の表題部を「ビラ等一覧表」と改める。

3  原判決二一枚目裏八行目の「右準備書面一1」を「債務者(控訴人)の主張1(一)」と、同二二枚目表末行の「同一2」を「同1(二)」と、同二二枚目裏二行目の「歪曲した」を「歪曲して」と、同七行目の「同準備書面二1」を「債務者(控訴人)の主張2(一)」と、同一〇行目の「同二2」を「同2(二)」と、同二三枚目表二行目の「同準備書面三」を「債務者(控訴人)の主張3(一)」と、同五行目の「同一2」を「同3(二)」と、同八行目の「同準備書面四1」を「債務者(控訴人)の主張4(一)」とそれぞれ改め、同八、九行目の「日時」の次に「(ただし、原判決添付別紙職場放棄一覧表(四)のうち、昭和五九年九月七日通告した指名ストライキ実施日は同月一〇日から同月一二日までである。)」を加え、同一一行目の「同四2」を「同4(二)」と、同二三枚目裏三行目の「同準備書面五1」を「債務者(控訴人)の主張5(一)」と、同六行目の「同五2」を「同5(二)」とそれぞれ改める。

二  控訴人の当審における主張

1  本件懲戒解雇の正当性について

(一) 本件指名ストは、従組が自己の主張を有利に導くべく、控訴人の銀行業務を阻害し、控訴人に圧力をかけるために実施したものとは到底言えず、指名ストに名を借りて、被指名者をして組合用務に従事させるために実施した違法なものである。

(1) 本件指名ストは、昭和五八年一一月五日に開かれた従組の第三二回中央闘争委員会において決定されたものであるが、その内容は、同月八日付の組合ニュース紙によれば「不当な専従者協定解約に対して、組織防衛の観点から常任中闘委員(執行部)の指名ストライキによる行動で専従者を確保していく。」というものである。これと同趣旨の記事は翌九日付の組合ニュース紙にも掲載されており、また、従組の委員長である被控訴人大橋も、静岡県地方労働委員会(地労委)において、専従がいなくなったので組合活動のため指名ストライキを執行部二名にかけているなどと右に副う証言をしているし、さらに、被控訴人ら五名は、本件懲戒解雇後の昭和五九年一〇月一〇日新聞記者会見を行い、「指名ストをして組合活動をしていた」ところ解雇されたと発表し、毎日新聞にその旨報道された。これらによれば、従組は、専従協定が解約失効し、旧専従者らが行っていた組合用務を担当する者がいなくなったため、組織決定を経たうえ、指名ストに名を借りて、組合用務を担当する者を確保したものに外ならない。

(2) 本来、指名ストなるものは、争議行為の一つである以上、対抗している使用者の「業務の正常な運営を阻害するもの」である筈であり、組合員に指名ストをかけて担当職務に従事させず、よって、使用者の業務を停滞させて圧力をかけ、交渉を有利に導こうとする労働組合の争議手段である。本件のごとく、長期間、組合専従の職にあり、銀行業務から遠ざかっていた組合役員に指名ストをかけたからといって、銀行業務が停滞する筈もなく、就労拒否自体から控訴人に何らかの圧力をかけることは不可能である。業務阻害を目的としないところに、争議行為としての指名ストなどあり得ない。

(3) 本件指名ストが従組の組合用務に従事するための口実にすぎなかったことは、本件指名ストが実施された「時期」の点からも明らかである。すなわち、指名ストが実施されたのは専従協定が解約失効した直後の昭和五八年一一月九日以降であり、それ以前には本件のごとき連続した指名ストなど一度として実施したことはなく、また、本件解雇後においてもない。この点からみても、本件指名ストの目的が組合用務に専従するための要員を確保することにあったことは否定できないところである。

(4) さらに、本件指名ストの対象者が旧専従者ら三名を含む従前の専従者数と同じ五名に限られていたことからも、本件指名ストの目的は明らかである。

(二) 労働組合の作成、配布したビラ等の記載内容が事実に反するものであったり、不当に使用者の名誉、信用を毀損するものであった場合には、当該ビラ等の作成、配布は、到底正当な組合活動ということができず、懲戒処分の対象となる。まして、そのようなビラ等を使用者の顧客を含む不特定多数の第三者に配布することは、直接または間接に使用者の営業活動に重大な影響を与えるものであり、情状が悪いといわざるを得ない。なかんずく、銀行の場合には、銀行と顧客との信頼関係を柱として行内の規律を維持し、いやしくも、顧客から不審の念を持たれないよう努めることが何にもまして重要なことである。したがって、本件ビラ等の配布の正当性を判断するにあたっては、かかる銀行という特殊な業種のなかで行われたという特別事情を十分に斟酌するべきである。

本件において、被控訴人らが配布した原判決添付別紙ビラ等一覧表記載の(一)ないし(六)のビラ等の内容は、いずれも、全く事実に反するものばかりであり、銀行としての控訴人の信用を著しく毀損するものである。例えば、同表(三)の地元企業、地元取引先を大切にしない云々との記載は特に、重大であり、銀行の行員たる者が書いた文章とは到底思えないし、また、同表(五)の銀行が危ないなどとの記載は、銀行においては全くの禁句であり、被控訴人ら自らが銀行の行員たる地位を放棄する意思を表示したとしか思えない。

右のごとき違法、不当なビラ等の配布を企画、決議、執行、指揮し、あわせて自ら一般の第三者に配布した被控訴人らの責任は重大である。

(三) 以上のとおりであり、被控訴人らの指名ストライキに名を借り、専ら就業時間中に組合用務に従事するための職場放棄は、その目的において正当性を欠くか、もしくはストライキ権を濫用したものとして違法なものであり、かつ、同人らの違法、不当なビラ等の作成、配布もまた許すべからざる業務阻害行為であって、右各行為は、いずれも就業規則に定められた懲戒事由に該当する。

控訴人が被控訴人らに対してなした本件懲戒解雇は、いずれも正当、有効なものというべく、何ら不当視されるいわれのないものである。

2  不当労働行為について

被控訴人らは、控訴人が数々の不当労働行為を重ねている旨縷々主張するが、控訴人は、そのような不当労働行為など一切行っておらず、被控訴人らの右主張は全く事実無根である。以下、被控訴人らの主張のうち主なものについて反駁する。

(一) まず、被控訴人らは、控訴人が従組の専従者排除をねらって専従協定解約通告をしたと主張する。

しかし、控訴人は、近年における金利の自由化や金融制度面の自由化など銀行を取巻く金融環境の変化に対応するため、業務を機械化して業務の効率化を図り、一人一人の行員の資質を向上させて少数精鋭主義で臨まざるを得ない必要に迫られていた。そして、このような状況は、当然のことながら、組合専従制度にも影響し、専従者も行員の一人であるという在籍専従者制度であることから、専従者の任期が極端に長期化していることの是正および専従者の人数の適正化対策が急がれたため、控訴人は、昭和五八年六月一五日の団交の席上、従組に対し、正式に専従協定の改定を提案した。ところが、従組は、これに対して、委員長自ら「忙しくてやっていられない。」などと発言し、協議自体を回避する姿勢を示した。そこで、控訴人は、このままの状況では、協約改定のための交渉にすら入れないと判断せざるを得ず、同年七月六日の団交において、専従協定を同年一〇月五日をもって解約する旨通告し、併せて、右期限までには十分時間もあるので、その間に協議を尽くし、新しい専従協定を締結したい旨申し伝えた。しかし、従組は、その後も、協定解約には従組との合意が必要である、控訴人が解約通告を撤回しない限り交渉には応じないとの姿勢をとり続け、交渉自体を拒否したものである。

(二) 被控訴人らは、昭和五八年三月末まで非専従の中央執行委員が就業時間内に組合活動を行うことは、慣行として認められており、それに対する賃金カットも行われていなかったと主張する。

しかし、かかる慣行は全く存在していなかったものであって、被控訴人らは、すでに失効した労働協約の中に右組合活動を認める条項があったことを根拠にして、あたかも、同協約が現存しているが如く援用し、かつ、これを故意に曲解ないし拡大解釈しているものに過ぎず、何ら論理的根拠のあるものではない。被控訴人らの右主張が何ら根拠のないものであることは、控訴人が同年四月以降非専従中央執行委員の就業時間中の組合活動に対して、直接賃金カットを行っているのに対し、右専従者から何らの異議も、また返還請求もなされていないことからしても、明らかである。

(三) 被控訴人らは、非専従中央執行委員に対し事前協議慣行を無視して配転を行ったと主張するが、控訴人は、合計一四五の部、室、店間にわたる適正な人員配置や行員の自己活性化の実現等を目的として毎月のように多人数の配転を実施しているものであり、これまで、従組役員の異動に関して労使間の事前協議が行われたことはなかった。

(四) 被控訴人らは、控訴人が秘密裡に支店長代理等役職者を中心にして職組を結成させたと主張する。しかし、この従組分裂は、当時の従組執行部の闘争至上主義的運営と非民主的独善性に対する、一般組合員の基本的組合感覚の復元力と自浄作用とがもたらした自壊作用であり、同組合員の職組への大量加入は真の民主的な組合運営を求める組合員が自主的に選んだ結果の雪崩現象ともいうべきものであって、被控訴人らの右主張は、かかる分裂と組合員の大量脱退の責任を控訴人に転嫁せんがための言い掛りにすぎない。

また、被控訴人らは、控訴人の人事部宮治次長が職組結成に関与したと主張するが、全く事実無根である。

さらに、被控訴人らは、控訴人が職制を使い、従業員に対し、従組からの脱退と職組への加入を働きかけたと主張する。しかし、控訴人は、右の如き行為は一切行っておらず、また右主張のようなことを支店長らに行え等という指示、命令も出していない。右主張は、前記のとおり、自壊作用の結果生じた組合分裂及び大量脱退の責任を控訴人に転嫁しようとするものであって、言い掛りも甚だしい。

3  解雇権の濫用について

本件解雇が解雇権の濫用であるとの被控訴人らの予備的主張は否認する。

本件解雇が正当かつ有効なものであることは、前記のとおりである。

三  被控訴人らの当審における主張

1  不当労働行為について

本件懲戒解雇は不当労働行為に当たるから無効である。控訴人は、昭和五八年三月の職能資格給制度導入提案を契機に、従組壊滅を目的としてありとあらゆる不当労働行為を重ねてきた。昭和五八年三月から本件懲戒解雇に至るまでの控訴人の従組に対する主な攻撃は次のとおりである。

(一) 控訴人は、昭和五八年六月一五日、突然一二年間も継続してきた専従者協定の改定提案を行い、実質的協議を何ら行わないまま、三週間後の同年七月六日右協定の解約通告を行った。そして、控訴人は、同年一〇月五日右協定は解約により失効したと主張し、同月一二日付辞令で、被控訴人大橋、同勝俣、同柿畑を含む五名の専従者らに職場復帰を命じた。専従者らは、右命令に従わないと処分するといわれたため、右命令は不当労働行為であるとの異議をとどめつつ職場に復帰した。

すると、控訴人は、昭和五九年一〇月八日に至り、被控訴人らが不当労働行為に対抗し、かつ、賃上げなどの要求を実現するため行った指名ストライキ及びビラ配布を理由として本件懲戒解雇を強行した。

(二) 従来、非専従の中央執行委員が就業時間内に組合活動を行うことは、慣行として認められており、それに対する賃金カットも行われていなかった。ところが、控訴人は、昭和五八年三月職能資格給制度導入を提案し、従組がこれに反対すると、突然二五年間も続いた慣行を破り、非専従中央執行委員の就業時間内組合活動に対して同年四月分から賃金カットを強行してきた。

さらに、控訴人は、右組合活動を理由に同年九月から同年一二月にかけて懲戒処分を濫発した。

(三) 控訴人と従組間においては、昭和四三年三月までは労働協約及び協議会規定に基づき、同年四月以降は労使慣行により、中央執行委員の異動については、労使双方が事前に協議し、合意のうえで実施することとされていた。ところが、控訴人は、昭和五九年四月五日、従組に対し何らの事前連絡もせず、中央執行委員である被控訴人小塚、同大石に対し、転居を伴う転勤を命じた。

(四) 控訴人の人事部調査役宮治資雄は、昭和五八年七月二一日、神奈川県平塚市内で開かれた駿河銀行職員組合(職組)の会議に出席し、その席上において、職組は銀行が後押しするからだいじょうぶだなどと発言した。また、宮治は、右会合に先だち、同月一〇日自宅に銀行の支店長代理らを集めて、職組結成の準備を行った。さらに、控訴人は、同月二三日から一斉に支店長をはじめとする職制を使い、従業員に対し、従組からの脱退と職組への加入を働きかける工作を開始した。

(五) 控訴人は、同月一九日の職組結成後、従組組合員に対し、転居を伴う配転命令を多発し、従組の弱体化を図った。

(六) 控訴人は、昭和五九年四月静岡地方裁判所沼津支部に対し、従組の預金債権金二六三六万円余を仮に差押える旨の申請をなした。これは、控訴人が従組に対する兵糧攻めを企図した悪質な攻撃である。控訴人は、右仮差押の被保全権利として、控訴人と従組間に、非専従中央執行委員の就業時間内組合活動に関する賃金カット相当額を従組が一括して戻入する旨の契約が成立していると主張したが、従組の組合ニュース紙などの書証により右契約が成立していないことは明らかであったから、右仮差押申請は却下され、これに対する抗告も棄却された。

2  本件指名スト、ビラ配布について

(一) 本件指名ストは、前記のとおり、従来の労使関係からは予想できないほどの激しい争議状態が継続している時期に、ストライキ通告書で事前に控訴人に通告したとおり従組の昭和五八年度賃金引上げ実現と組合組織防衛等の目的をもって、控訴人の正常な業務を阻害する態様のうち、被控訴人らの不就労という態様で実施された同盟罷業であり、その目的、手段、態様からみて、正当な組合活動であることは、明らかである。

(二) また、本件ビラ等の内容は、いずれも真実を伝えているものであり、従組が控訴人の異常な組合破壊攻撃に対して団結権を擁護し、組合員の権利を守るために、控訴人の不当労働行為を事実をもって明らかにし、労務政策を批判したものであって、全く正当なものである。

3  解雇権の濫用について

本件指名スト及び本件ビラの作成、配布はいずれも正当な組合活動であり、これを理由とする解雇は不当労働行為であることは明白であるが、右正当な組合活動を理由とする本件解雇は、別の面からみれば、まさしく、解雇権の濫用でもある。被控訴人らは、予備的に、右解雇権の濫用を主張する。

第三疎明(略)

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本件仮処分申請は理由があり、本件仮処分決定はこれを認可すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これをここに引用する。

1  原判決二三枚目裏末行〔後掲46頁1段目末行〕の「当事者間で」を「当事者間に」と、同二四枚目表末行〔同2段目17行目〕の「記載のとおり」から同裏一行目〔同19行目〕の「を執行、」までを「記載のとおり(ただし、同表(二)、(三)の指名ストライキによる職場放棄、終日欄のうち昭和五八年一二月一〇日を除く。また、同表(四)の従組より通告の指名ストライキ実施日欄のうち昭和五九年九月一〇日から九月とある部分を除く。)、各ストライキ通告日欄記載の日に、控訴人に対し、各従組より通告の指名ストライキ実施日欄記載の日に各ストライキ目的欄記載の目的で各考の表題部記載の者において指名ストライキを実施する旨通告したうえ、各指名ストライキによる職場放棄、終日欄記載の日に各指名ストライキ(以下「本件指名スト」という。)を実施することを執行、」と、同四行目〔同22行目〕の「表記載の(一)ないし(六)のビラ等を」を「表の(一)ないし(六)記載のとおり、各配布日時欄記載の日に、各銀行にする誹謗、中傷記事欄記載の内容のビラ等を沼津市内等の街頭で」と、同二五枚目表一行目〔同3段目1行目〕の「同表(一)ないし(六)」を「同表(一)及び(六)」とそれぞれ改める。

2  〔同3段目23行目の証拠の付加・削除・略〕

3  原判決二六枚目表末行〔同3段目26行目〕の「昭和五八年」から同裏一行目〔同28行目〕の「従組は」までを「控訴人と従組との労使関係は、昭和四〇年ころまで比較的安定した関係を維持していたところ、その後、従組が活発に組合活動を展開するようになり労働条件等をめぐって労使の意見が対立し、控訴人が従組に対して次第に不信感を強めるようになっていったが、昭和五八年春までは、団体交渉を通じ労使の譲歩により労働条件が定められるという労使関係が続いていた。ところで、控訴人は、従組に対し、昭和四一年と昭和四八年の二回にわたり、職能資格給制度の導入を提案したが、その都度従組の反対によりこれを実現することができないでいたところ、その後、金融の自由化、銀行業務の機械化等の事情から業務の効率化、人員の削減とモラールの向上、活性化を図る必要が増大したため、昭和五八年三月一四日、従組に対し、前回までの内容を改めた新規の職能資格給制度の導入を初めて提案した。右制度は、従来の年功序列的給与制度を改めたもので、まず、職務の内容をいくつかの職能区分に分類し、その各区分毎にさらに三または四の等級を設けたうえ、全従業員をその職務遂行能力に応じて各等級に格付けし、各人の基本的給与を各等級別に定めようとするものであったが、従組は、」と、同三、四行目〔同30~31行目〕の「反対し、最低保障賃金の引上げ等を目的として」を「反対するとともに、昭和五八年度の賃金引上げ(いわゆるベースアップ)を要求して」と、同五行目の〔同4段目1行目〕「債務者と従組との右交渉」を「従組が控訴人に対し、職能資格給制度について各等級毎の具体的な資格基準の明確化や昇格、昇号に当たっての公正な人事評価の保障などを要求し、従組と控訴人との右制度導入及び賃上げをめぐる交渉」と、同七行目〔同4段目4行目〕の「職能給」を「職能資格給」とそれぞれ改め、同九行目〔同7行目〕の「みなす旨」の次に「文書で」を加え、同一〇行目の〔同8行目〕末尾に続けて次のとおり加える。

「ところが、控訴人は、同年九月六日、後記のとおり同年七月一九日に新しく結成されたばかりの駿河銀行職員組合(職組)との間で、右制度導入の問題を切り離して、昭和五八年度賃金引上げについての合意をし、同年九月二四日までに職組の組合員に対してのみ右引上げ額との差額賃金等を一括して支払い、従組の組合員に対しては右賃上げについての妥結をしないまま昭和五九年三月末日に差額賃金等を一方的に支払った。そして、控訴人は、従組との合意が成立していないのにもかかわらず、同年二月二〇日、全国の各支店長に対し、職能資格給の導入に伴い、給与規定を改訂し、昭和五八年一〇月一日にさかのぼってこれを実施する旨の通知を発し、所轄労働基準監督署宛にその旨の就業規則変更届を提出するよう指示した。」

4  原判決二六枚目裏末行〔同9行目〕の「同年」から同二七枚目表四行目〔同15行目〕の「行った。」までを「控訴人と従組との間には昭和四六年六月二五日締結された組合専従者に関する協定(専従協定)が存在し、これによれば、専従者は組合の中央執行委員のうちより五名以内を選任しその任期は右委員の任期中とする、右協定を改正、廃棄する場合は控訴人と従組の双方の合意を必要とする旨定められ、右締結以来一二年間にわたって協定をめぐる紛争もなく、専従者五名が選任されてきたところ、控訴人は、従組に対し、昭和五八年六月一五日、右協定について、専従者を三名以内としその任期を原則として一年とする旨の改定を提案し、さらに、これについて従組との間で実質的な協議を尽くさないまま、右提案からわずか二一日後の同年七月六日、従組に対し、一方的に、右協定を同年一〇月五日をもって解約する旨の文書による通告を行った。」と改め、同六行目〔同17行目〕の「をした」の次に「(地労委は、昭和六〇年一二月五日、右解約通告は不当労働行為にあたるとして救済命令を発し、中央労働委員会は、昭和六二年六月一七日、控訴人の再審査申立てを棄却する旨の命令をした。)」を加える。

5  原判決二七枚目表七行目〔同4段目18行目〕の「一九日、」の次に「新しい労働組合として」を加え、同行目〔同19行目〕の「そして、」から同九行目〔同22行目〕の「相次いだため、」までを「そして、控訴人の人事部調査役宮治資雄は、同年二一日、職組の委員長ら約二〇名が参加した職組の会合に出席し、その席上において、控訴人が職組の後押しをする、みんなを従組から脱退させて職組に加入させるようにとの趣旨の発言をし、また、このころから、控訴人の浜松支店、磐田支店などの各支店長は、支店従業員に対し、従組からの脱退と職組への加入を勧誘する行動を始めた。そこで、」と、同末行目〔同24~25行目〕の「申立てをした。」を「申立てをした(地労委は、昭和六三年二月二九日右勧誘するなどの行為をもって従組の運営に支配介人してはならないとの救済命令を発した。)。なお、職組結成後、従組から脱退して職組へ加入する従業員が相次ぎ、従組の組合員数は、昭和五八年七月一日現在の約二六〇〇名から、同年一〇月下旬には約三四〇名となり、昭和五九年九月末には約一五〇名にまで減少した。」とそれぞれ改める。

6  原判決二七枚目裏一行目〔同4段目26行目〕の「4」の次に「控訴人は、昭和四三年四月以降、従組の非専従中央執行委員が労使団体交渉に出席する場合、中央執行委員会に出席する場合については、就業時間内の組合活動を事実上承認していたが、昭和五八年四月から右活動を一切否定し、就業時間内に右団体交渉や委員会に出席した非専従中央執行委員五名に対し、右各出席は就業命令に違反した職場放棄であるとして、その賃金カットを行い、さらに、右の者らに対し、その後も就業時間内に右組合活動を行ったことを理由に、同年九月から同年一二月にかけて譴責処分、次期昇給停止処分、減給処分、臨時給与カット処分を次々に発した。そして、」を加え、同行目〔同行末~27行目〕の「従組執行委員」を「従組中央委員蒔田育生、同」と改め、同三行目〔同30行目〕の「対し、」の次に「また、」を、同四行目〔同行目〕の「五日」の次に「従来の労使慣行に反して従組に何ら事前連絡もしないまま、従組中央執行委員であった」を、同七行目〔同47頁1段目3行目〕の「従組は、」の次に「昭和五八年一〇月二一日、同月二六日及び同年一二月二七日、右各懲戒処分は不当であるとして、また、」をそれぞれ加える。

7  同二七枚目裏末行〔同8行目末〕の「債務者は、」の次に「専従協定が失効したとして、」を加え、同二八枚目表三行目〔同13行目〕の「これを」を「これは」と、同四行目〔同14行目〕の「異議」から同五行目〔同15行目〕末尾までを「異議を申し立てたが、右命令に応じなければ、就業規則違反として処分されることも予想されたため、止むなくこれに従い、同年一一月一日各勤務場所に着任した。」とそれぞれ改める。

8  同二八枚目表末行〔同23行目〕の末尾に続けて次のとおり加える。

「また、従組は、組織防衛のため、昭和五九年五月一二日上部団体の全国地方銀行従業員組合連合会に加盟し、同年七月一四日開催の代議員大会において、静岡県労働組合評議会、沼津地区労働組合会議をはじめとする県下七地区の労働組合会議、神奈川県金融労働組合共闘会議への各加盟を決議した。そして、従組は、昭和五八年一一月五日中央闘争委員会において本件指名ストの実施を決定し、右のような賃金引上げ、組織防衛などの諸要求実現の目的を掲げて、同月九日から被控訴人勝俣、同柿畑に対し、また昭和五九年一月二三日から右両名に加えて被控訴人大橋に対し、それぞれ指名ストを指令し、これを実施させた。さらに、従組は、前記のとおり配転命令を受けた被控訴人小塚、同大石についても同年四月一八日から指名ストを指令し、同年六月二日以降は、被控訴人ら以外の中央執行委員及び中央委員多数に対しても指名ストを指令し、それぞれ実施させた。また、この間、従組は、一般の第三者に対し争議の内容を伝え支援を訴える目的でビラ等を作成、配布することを決議し、昭和五八年九月と昭和五九年五月ないし九月に原判決添付別紙ビラ等一覧表記載のとおりのビラ等をそれぞれ作成、配布した。」

9  原判決二八枚目裏一行目〔同1段目24行目〕の「事実」の次に「及び前記一の当事者間に争いのない事実」を、同二行目〔同26行目〕の「職能」の次に「資格」を、同三行目〔同27行目〕の「以来」の次に「激しい対立状態が生じ」を、同六行目〔同段末行〕の「一覧表」の次に「(一)ないし(五)」をそれぞれ加え、同一一行目〔同2段目7行目〕の「間で」を「間に」と改め、同二九枚目表三行目〔同11行目〕の「指名ストは、」の次に「専ら」を加え、同五、六行目〔同15行目〕の「確かに、」から同末行目〔同23行目〕の「できず、」までを次のとおり改める。

「確かに、前記認定事実によれば、本件指名ストは、専従協定が解約され(元)専従中央執行委員らが職場に復帰した昭和五八年一一月一日以降になってはじめて実施されており、またストライキの被指名者も同年一一月から昭和五九年五月末までは(元)専従者三名と中央執行委員二名の合計五名であって、協定解約以前の組合専従者と同人数であること、右(元)専従者三名は、長期間銀行業務から遠ざかっていた者であり、これらの者の指名ストによって控訴人の業務が実質的に阻害されることはほとんどなかったこと、(証拠略)によれば、当時の従組の組合ニュース紙には、指名ストによって組合専従者を確保する旨の記載があり、従組の委員長であった被控訴人大橋も地労委において同趣旨の供述をしていることが認められ、これらによれば、本件指名ストは、控訴人主張のように、組合専従者を確保し被指名者を組合の用務に従事させる目的で実施されたものではないかとの疑問が全くないわけではない。しかしながら、指名ストによる職場放棄の結果として組合の用務を行うことがあったとしても、このことのみをもって直ちに違法、不当なストライキということはできないのみならず、本件指名ストは、前記のように、従来の労使関係からは予想もできないほどの激しい争議状態、すなわち、昭和五八年三月の控訴人からの職能資格給制度導入提案をはじめとして、その後の控訴人による一方的な専従協定解約通告、新組合である職組の結成と職組組合員の増加、これらについての控訴人の関与、従組の非専従中央執行委員らに対する多数の懲戒処分の発令、従組役員に対する配転命令等々をめぐる激しい争議状態が継続し、しかも、従組を脱退して職組に加入する従業員が相次ぎ、昭和五八年七月一日現在二六〇〇名であった従組組合員がわずか四か月後に約三四〇名に激減するという異常事態が進行している時期に行われたものであること、従組は、右のような状態の中で、昭和五八年四月二〇日同年度の賃金引上げ、同年一一月二六日職能資格給導入阻止、組合組織防衛など四項目、昭和五九年四月二一日同年度の賃金引上げなど二項目、の各要求実現を目的としてストライキ権を確立し、またこの間、地労委に対し、専従協定解約通告、職組結成等への控訴人の関与、配転命令などについて数度にわたって不当労働行為救済命令の申立てをしていること、そして従組は、右確立されたストライキ権に基づき、控訴人に対し指名ストの目的、実施日、対象者を事前に文書で通告したうえ、右通告どおりに本件指名ストを実施していること、右通告書には、ストライキの目的として、右賃金引上げ、組合組織防衛などの闘争を推進するためとの記載があることなど前記認定の事実関係に照らすと、本件指名ストを、専ら被指名者をして組合用務に従事させるための名目にすぎないものであり、正当目的を欠き、又はストライキ権の濫用であるとまで断定することはできず、」

10  原判決三〇枚目表一行目〔同3段目8行目〕の「二で判示」から同六行目〔同15行目〕の「認められる。」までを次のとおり改める。

「前記のとおり、本件ビラ等が配布された当時、控訴人と従組は激しく対立して争議状態にあったものであり、(証拠略)及び前二1ないし6認定の事実並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人らが街頭で一般の第三者に配布した原判決添付別紙ビラ等一覧表の(一)ないし(六)記載のビラ等の内容は、表現において誇張されたところがあり、相当でない部分もいくつかあるが、全体として、大部分が事実に基づき、従組がその事実を組合の立場から主観的に評価したところを従組の意見として表示したものであることが一応認められるのであり、それ以上に、」

11  原判決三〇枚目表八行目〔同18行目〕の「載された」の次に、「り、銀行の信用を傷つけるために記載、配布された」を加える。

12  原判決三〇枚目裏七行目〔同4段目1行目〕の「いわざるを得ない。」の次に「控訴人は、職能資格給制度の導入、専従協定の改定、被控訴人らの配転等は、金融自由化、銀行業務の機械化等いわゆる金融環境の変化への対応として必須の合理的措置であり、これらは従組に打撃を与える意図でなされたものでない等主張し、(人証略)の一部は右主張にそうし、いわゆる金融環境の変化の存在とこれに対する合理的対応の必要のあることも公知の事実であるが、このことを考慮しても右判断を左右することはできない。」を加える。

13  原判決三一枚目表一、二行目〔同4段目7~8行目の〕の「弁論の全趣旨により真正に成立したと認める」を「前記」と改め、同六行目〔同14~15行目〕の「いないこと」の次に「(なお、控訴人は、被控訴人らに対し、昭和五九年一〇月一日から同月八日までの各賃金を供託し支給した旨主張するが、これを認めるに足りる資料はない。)」を加える。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田尾桃二 裁判官 仙田富士夫 裁判官 市川賴明)

当事者目録

控訴人 株式会社駿河銀行

代表者代表取締役 岡野光喜

訴訟代理人弁護士 橋本武人

同 石川常昌

同 竹内桃太郎

同 江川勝

同 吉益信治

同 岩井國立

同 木下潮音

被控訴人 大橋光雄

被控訴人 勝俣寿人

被控訴人 柿畑孝

被控訴人 小塚竹司

被控訴人 大石和行

右被控訴人五名訴訟代理人弁護士 福地絵子

同 田中晴男

同 小部正治

同 井上幸夫

同 柳沢尚武

同 上条貞夫

同 清水光康

同 伊藤博史

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例